名画で語るキリスト教(ピエタ)
『ピエタ』とは、十字架から降ろされたキリストを、母マリアが静かに抱く姿を描いた主題です。
この作品が時代や宗教を超えて人々の心を打つのは、「犠牲」と、その奥にある「愛」というテーマが、私たち自身の人生にも深く関わっているからかもしれません。

「犠牲を払う」ということ
心理学の有名な実験に、「マシュマロ実験」があります。この実験では4才の子ども達にマシュマロを一つあげて、15分間我慢するように指示します。我慢できたら二つ目のマシュマロをもらえます。追跡調査によると、我慢できた子ども達の成長後の社会的な成功度は、我慢できなかった子ども達に比べて高かったのです。
ここで示されているのは、「目先の利益を手放すことで、後により大きな価値を得られることがある」という考え方です。「何かを得るためには何かを手放さなければならない」というのは、人類が長い歴史の中で繰り返し経験してきた教訓の一つと言えるでしょう。
そして私たちは、ときに大きな犠牲を払った経験ほど、そこに大きな意味を見いだそうとする傾向があります。
宗教儀式としての「犠牲」
歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは著書の中で、「人は苦しみを伴う行為を通じて、その物語をより強く信じるようになる」という考えを紹介しています。
苦しみは、あらゆる経験の中でも特に強い実感を伴います。そのため人は、その苦しみに意味を与えようとし、結果として信念がより強くなるのです。この視点から見ると、宗教における断食や巡礼、あるいは犠牲の物語も、人々の信仰を深める役割を果たしてきたと考えることができます。
キリスト教では人類の原罪を贖うためにキリストは自らを犠牲として差し出します。神、あるいはマリアが自分の息子を捧げたと解釈することも出来ます。究極の犠牲であり、キリスト教という宗教が持つ力の源泉でもあります。
『ピエタ』に感じる愛
ミケランジェロの『ピエタ』からは、合理性や布教の手段だけでは説明できない愛が伝わってきます。
キリストは自ら進んで十字架に向かい、マリアはその死を静かに受け止めています。深い悲しみの中に、それでもなお失われない愛があり、その先に救いへの希望が滲んでいます。それが『ピエタ』を人間の根源的な感情に触れる作品にしている理由でしょう。
ここにはキリスト教の核心である「犠牲」と「愛」、そして「救い」が凝縮されています。
古典には、現代を生きる私たちのあり方を問いかける力があります。ピエタの静かな姿に、ぜひそのメッセージを感じ取ってみてください。
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『おはなし名画シリーズ』は「子どもが気軽に本物の芸術に触れられる環境を作りたい」という思いからできたシリーズで、名画とともに画家の生涯を辿ります。絵が大きくて色も鮮やかな専門家からも高い評価を得ています。日本図書館協会/全国学校図書館協議会の選定図書です。最後の晩餐やキリスト教に関連する書籍も多くあります。是非ご覧になってください。
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