名画で語るキリスト教(受胎告知)と仏教(托胎霊夢)

キリスト教では印刷技術が発展して聖書が普及するまでは絵画が布教の道具として使われてました。一方、仏教では経典や仏典を写経したり、お経で伝えることを重視していたこと、また、芸術的な表現としては仏像や曼荼羅が一般的だったため、仏教画はそれほど盛んには制作されてきませんでした。作品数ではキリスト教絵画が圧倒的ですが、扱っている主題には似通っているところもあります。例えばキリストと釈迦の出生にまつわる逸話(受胎告知と托胎霊夢)にも共通点があります。

受胎告知とは「大天使ガブリエルに救い主を身籠ったことを告げられたマリアがそれを受け入れ、処女のまま救い主の母となった」という聖書の中の一連の出来事を言います。絵画の主題として沢山描かれています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 受胎告知
受胎告知(レオナルド・ダ・ヴィンチ)

このシーンでマリアは静かに次のように答えています。「私は神さまのものです。どうぞ神さまのお望みどおりになりますように。」

マリアのこの精神はキリスト教全体に通じるものです。イエスは自らに降りかかる数々の受難(迫害、弟子たちの裏切り、磔刑)を人類の原罪を贖うために運命として受け入れます。人生に起きる全てのこと。嬉しいことも辛いことも「全ては神の御心のままに」と受け入れる。それがキリスト教を信仰する人たちの強さなのでしょう。

仏教にも釈迦の出生にまつわる「托胎霊夢」という逸話があります。これを主題として描かれたのが平山郁夫画伯の「受胎霊夢」です。

受胎霊夢(平山郁夫)

今から2500年ほど昔のこと、今のインドとネパールの国境を跨いで広がる地域に釈迦族が納める小さな王国が栄えていました。この国は遠くヒマラヤ山脈の裾野にあって、戦乱からも免れ、静かで平和な生活を送っていました。王様の名前はシュッドダーナ。王妃の名前はマーヤといいました。

ある日、マーヤ王妃は不思議な夢を見ました。天から白い象が下りてきて王妃の身体の中に入った夢でした。この夢が前触れかのように、やがてマーヤ王妃に男の赤ちゃんが生まれました。大喜びのシュッドーダナ王はその子にシッダルタ「望みの叶えられる者」と名付けました。後にシッダルタは悟りを開いたことにより仏陀となり、釈迦様と呼ばれるようになります。

ちなみに、キリストは「油を注がれた者」という意味です。古代の神聖な儀式で王や預言者が神の選ばれた者として油を塗られたことからキリストが神に選ばれた存在であることを象徴しています。後にキリストは「救い主」を意味するようになります。

受胎告知では天使がお告げに来ますが、托胎霊夢では白い象が体の中に入ります。仏教では象は畏敬の対象であり、特に白い象は神聖な生き物とされています。母親が人智を超えた存在から妊娠を告げられるという構図が共通しています。また、それぞれの宗教で神聖な存在としての役割を果たしている母親の名前がマリアとマーヤと音が似ているのも面白いです。シッダルタとキリストという名前もそれぞれの在り方を象徴しているかのようです。

キリスト教は「神の子」であるキリストの「無償の愛」がベースになっています。仏教では修行により「悟り」を得ることで全ての人が「仏陀」になれるとされています。教義には明確な違いがあるものの、名前の重要性、聖なる母親の存在、出生の神秘など共通していることも多く、興味深いです。

是非、おはなし名画で絵画を楽しみながら、宗教について家族や友達と話したり、思いを巡らしたりしてみてください。
※宗教に対する畏敬の念を持っていますが、私自身はキリスト教徒でも仏教徒でもありません。教義に関する解釈も一般的な知識として記載しています。

「おはなし名画」の「レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロ」、「マリアさまの生涯」、「イエスの誕生とうわさの壁画 ベノッツォ・ゴッツォリ」、「おはなし名画をよむまえに」の「名画でメリー・クリスマス」の紹介記事も是非ご覧ください。

おはなし名画には「平山郁夫のお釈迦様の生涯」「平山郁夫と玄奘三蔵」もあります。平山郁夫画伯は元東京芸術大学学長でもあり、シルクロードを描いた日本画家としても大変著名です。

キリストの誕生日のクリスマスに比べるとマイナーな印象の4月8日の花祭りですが、仏教の教えも勿論、深く有難いものです。

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