マリー・ローランサンとココ・シャネルの対立:肖像画をめぐる因縁

淡い色彩で優美な女性たちを描いた画家マリー・ローランサンと、女性の服装に革命を起こしたデザイナー、ココ・シャネル。二人はともに1883年に生まれ、1920年代のパリで大きな成功を収めました。

美術とファッションという異なる世界で活躍した二人ですが、シャネルがローランサンに肖像画を依頼したことをきっかけに、その関係は決定的にこじれてしまいます。なぜ、時代を代表する二人の女性は反発し合うことになったのでしょうか。

山田五郎先生の「オトナの教養講座」で紹介された内容をもとに、二人の生涯と肖像画をめぐる因縁をたどります。

(この動画は期間限定公開です。)

同じ1883年に生まれた二人

マリー・ローランサンとココ・シャネルは、奇しくも同じ1883年に生まれました。
ローランサンはパリで、未婚の母のもとに生まれます。一方、シャネルはフランス中部オーヴェルニュ地方の貧しい家庭に生まれ、幼いころに母を亡くした後は修道院の孤児院で育ちました。

生まれ育った環境は異なりましたが、二人には大きな共通点がありました。まだ女性が社会で自立することが難しかった時代に、自らの才能によって道を切り開いたことです。

ローランサンは画家として、シャネルはファッションデザイナーとして成功し、1920年代のパリを象徴する存在になっていきました。

「洗濯船」の芸術家たちと出会ったローランサン

ローランサンは、学校の先生になることを望んでいた母を説得し、絵の道へ進みました。画塾で知り合ったジョルジュ・ブラックの紹介により、モンマルトルの共同アトリエ「洗濯船」に集まる芸術家たちと交流するようになります。

そこにはパブロ・ピカソをはじめ、後に20世紀の芸術を大きく変える若者たちがいました。ローランサンも当初はキュビズムの影響を受けましたが、やがて灰色や青、淡いピンクを使って優美な女性を描く、独自の画風を確立します。

マリー・ローランサン
アポリネールとその友人たち

『アポリネールとその友人たち』には、詩人ギヨーム・アポリネールを中心に、ピカソ、ローランサン、フェルナンド・オリヴィエらが描かれています。

後年の柔らかな作品とは異なり、キュビズムやアンリ・ルソーからの影響を感じさせる一枚です。

ローランサンはアポリネールと恋愛関係になり、パリの前衛芸術の中心で注目を集めていきました。

山田五郎先生はルソーの影響にも言及しており、ルソーが描いたローランサンの肖像画も紹介されています。

シャネルが依頼した肖像画

1920年代に入ると、ローランサンは上流階級の女性たちから人気を集める肖像画家になります。
そんなローランサンに肖像画を依頼したのが、すでにファッション界で成功を収めていたココ・シャネルでした。二人を引き合わせたのは、当時のパリ社交界で大きな影響力を持っていたミシア・セールだったとされています。

マリー・ローランサン ココ・シャネル
マドモアゼル・シャネルの肖像

1923年に完成した『マドモアゼル・シャネルの肖像』では、青みがかったドレスをまとったシャネルが、犬や鳥とともに描かれています。

淡い色彩に包まれた姿は優美ですが、シャネルが自ら築き上げた、強く活動的な女性というイメージとは異なっていました。

シャネルは完成した肖像画に満足せず、ローランサンに描き直しを求めたといわれています。

しかし、自分の芸術に強い自信を持っていたローランサンは、その要求を拒否しました。

肖像画はシャネルに引き渡されず、画商ポール・ギヨームの手に渡り、現在はパリのオランジュリー美術館に所蔵されています。

シャネルはなぜ肖像画を受け取らなかったのか

シャネルは、自分を「自立した現代女性」として見せようとしていました。一方のローランサンは、モデルの外見を忠実に写すのではなく、自分の美意識によって詩的な女性像へと変えて描きました。つまり、シャネルが見せたかった自分と、ローランサンが絵の中に見いだしたシャネルが一致しなかったのです。

ローランサンとシャネルは、ともに気が強く、自分の才能によって男性中心の社会を生き抜いた女性でした。山田五郎先生は、二人が反発し合った背景には、互いに似たところがあったための「近親憎悪」のような感情もあったのではないかと指摘しています。

淡い色彩で夢のような女性像を描いたローランサンと、黒を基調とした機能的な服で現実の女性を解放したシャネル。その表現方法は対照的ですが、既存の価値観に従わず、自分のスタイルを貫いた点ではよく似ています。

二人の衝突は、単なる好き嫌いではなく、それぞれの美意識と誇りがぶつかった結果とも考えられます。

一枚の肖像画が伝える二人の誇り

『マドモアゼル・シャネルの肖像』をめぐる衝突は、二人の才能と誇りが正面からぶつかった出来事でした。

ローランサンは画家として、自分が感じたシャネルの姿を変えようとしませんでした。シャネルもまた、自分がどう見られるかを他人に委ねることを受け入れませんでした。

二人が残した作品が今も人々を魅了するのは、時代や周囲に迎合せず、自らの美意識を貫き通したからなのかもしれません。山田五郎先生の解説からは、淡く優しい作品からは想像しにくいローランサンの強気な一面と、二人の複雑な関係が見えてきます。

マリー・ローランサンについてもっと知る

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おはなし名画の「ローランサンとモディリアーニ」では、エコール・ド・パリを代表する二人の画家の生涯を、子どもにも読みやすい物語と豊富な作品で紹介しています。

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