葛飾北斎『富嶽百景』初編とは?代表作と見どころを紹介

富嶽百景とは

『富嶽百景』は、葛飾北斎が晩年に刊行した富士山主題の版本です。代表作『富嶽三十六景』が一枚絵の錦絵であるのに対し、『富嶽百景』は信仰・伝説・人々の暮らしまで含めて富士を多面的に描いています。

『富嶽百景』は初編・二編・三編の三冊からなり、北斎晩年の富士観を知るうえで重要な作品集です。

この記事では、博雅堂出版が所有している「富嶽百景(初編)」の復刻版から印象的な作品をいくつかご紹介します。弊社が発刊している「対訳・北斎の富士」に掲載されていない作品もあわせて取り上げます。

まずは外観をご覧ください。

富嶽百景(初編)の復刻版本の表紙

重厚な造りで、歴史的資料としての趣を感じさせます。『富嶽三十六景』ほど広く知られていない図も多く、初めて見る作品に触れられるのも魅力です。

役ノ優婆塞 富嶽草創

役ノ優婆塞が富士山で修行する姿を描いた富嶽百景の図
役ノ優婆塞 富嶽草創

「役ノ優婆塞(えんのうばそく)」とは「役の行者(えんのぎょうじゃ)」や「役の小角(えんのおづぬ)」とも呼ばれた、7~8世紀に奈良を中心に活動していたと思われる、修験道の開祖とされている人物です。

「優婆塞」とは、在野の信仰者を意味します。「日本霊異記」に伊豆に流された時、夜は富士山で修行したと書かれています。北斎が描いたのはその姿です。伝説の行者の姿が神秘的に描かれています。

富士信仰については『富士信仰とは?北斎「諸人登山」に見る富士講と富士登山』にも記載しています。よろしければご覧ください。

山亦山(左)と尾州不二見原(右)

山並みの向こうに富士山を望む「山亦山」と鶴が飛ぶ「尾州不二見原」
山亦山(左)と尾州不二見原(右)

「尾州不二見原」という作品は三十六景にもあり、「桶屋の富士」としても知られています。百景では「群鶴」と「遠方の富士」が描かれています。この組み合わせは富嶽三十六景にもあります(相州梅沢左)。

左の「山亦山(やま また やま)」は三十六景にはない構図です。富士山に連なる山々を描いた奥行のある作品です。

鶴が飛ぶ空の下に遠く富士山を望む相州梅沢左
相州梅沢左
桶の輪越しに富士山を描いた葛飾北斎「尾州不二見原(桶屋の富士)」
桶屋の富士

宝永山出現(其一)

土石を激しく噴き上げる富士山を描いた「宝永山出現(其一)」
宝永山出現(其一)

1707年(旧暦宝永4年)の11月23日午前10時に富士山は鳴動し、南東山腹の五合目付近から噴火しました。天地は暗闇となり、火口からは土石を飛ばしたと伝えられています。

宝永山出現は、この宝永噴火を踏まえて描かれた図です。北斎自身が現場を見たわけではないため想像図と考えられます。画面いっぱいに噴出する描写は、通常の風景画とは違う迫力があり、北斎の意外な一面を感じさせます。

初めて見たときは、まるで無重力空間を描いたかのように感じられ、強く印象に残りました。しかもこの絵には続きがあり、次の場面では打って変わって、のどかな風景が描かれています。

宝永山出現(其二)

噴火後の宝永山を眺める人々を描いた「宝永山出現(其二)」
宝永山出現(其二)

噴火により出来た隆起が宝永山です。
宝永山を珍し気に眺める人たちも描かれています。左から二番目の男の人の右頬の瘤と宝永山が対比されているとの解説もあります。

宝永山噴火は富士山の噴火としては最新かつ最大のものとされています。富士山が活火山であることも忘れてはいけないですね。

孝霊五年 不二峯出現

富士山の出現を見上げる人々を描いた「孝霊五年 不二峯出現」
孝霊五年 不二峯出現

宝永山出現と違い、こちらは伝説に基づいた想像図です。
この伝説は江戸時代には広まっていましたが、第7代天皇の孝霊天皇についての『日本書紀』『古事記』の記載は少なく、実在していたのかは定かではないようです。

北斎が描いた人々の服装は江戸時代のものですので、厳密な時代考証を意図したものではなかったのでしょう。山頂が枠外に突出している点や人々の視点が山頂に集まっている構図が富士山の雄大さを際立させています。

鏡臺不二

富士山の出現を見上げる人々を描いた「孝霊五年 不二峯出現」
鏡臺不二

富嶽百景には、富士山とともに江戸時代の人々の暮らしが描かれた作品が多くあります。鏡臺不二もその一つです。 題名は夕日を鏡に、富士山を鏡台に見立てたものです。

漁師たちは仕事を終えて家路につくところでしょう。まとわりつく犬は魚をおねだりしているかのようです。
樽は生け簀として使われているのでしょうか?
細かく見ると沢山の発見がある楽しい絵です。

快晴の不二

赤く染まる富士山を正面から描いた「快晴の不二」
快晴の不二

一見して、富嶽三十六景の「凱風快晴(赤富士)」を思わせる構図です。「凱風快晴」の好評を受けての後継作品との評もあります。

富嶽百景は富士山にまつわる信仰や伝説、あるいは富士山をバックに江戸の人々の暮らしや文化を描いた作品が多いなか、富士そのものの造形美を正面から描いた作品です。

青空を背景に赤く染まる富士山を描いた葛飾北斎「凱風快晴(赤富士)」
凱風快晴(赤富士)

『富嶽百景』初編には、信仰や伝説、噴火の記憶、人々の暮らし、そして富士そのものの雄大さなど、北斎が見つめた多様な富士の姿が描かれています。『富嶽三十六景』とはまた違う魅力を味わえる点も、この作品集の大きな見どころです。

書籍の紹介

様々な富士を北斎らしい感性で描いた富嶽百景の作品を「対訳・北斎の富士」でも是非お楽しみください。

本書には「富嶽三十六景」と「富嶽百景」から28枚の作品を掲載しています。富士山と富士を眺める人々の暮らしや文化を楽しめます。

大江健三郎氏のノーベル賞受賞講演の翻訳された山内久明先生の格調高い英文付きです。

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書籍『対訳・北斎の富士』の表紙

B4変形 36ページ
本体価格 ¥2,000(税別)

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