落穂拾い ― 労働と祈りの静かな連環

(ミレーの『落穂拾い』からヒントを得たファンタジーです。)

🌸第一章 邂逅

陽が傾きかけた畑に、三人の影が並んでいた。
マリーと母、そして見慣れない青年。

青年は地主の息子で、父に命じられて視察に来たルイだ。
マリーと母は膝をつき、指先で土をかき分け、落ちた穂を拾い集めている。

ルイが声をかけた。
💬「なぜこんな時間まで働くのですか?」

マリーは落ち着いた声で答える。
💬「これが私たちの仕事だから。」

麦の穂を手にすると、微かな温もりが伝わった。
💬「ただ拾うだけで、それが仕事になるのですか?」

母が穏やかにほほ笑んだ。
💬「拾うことは、祈ること。神さまの恵みを手のひらで確かめるの。」

父が語る効率や利益とは違う価値がそこにあった。

🌿第二章 手と心

翌日、ルイは自ら畑に現れた。
「少し、手伝わせてもらえますか?」

マリーは戸惑ったが、母は頷いた。
💬「ありがとう。でも無理はしないでね。」

ルイはしゃがみ、ぎこちなく穂を拾い始めた。
硬い靴の底が土を押しつぶし、何度も穂を落とす。

一粒を摘もうとしては落とし、また拾い上げては風に飛ばされる。
汗が額を伝い、泥が手の甲に乾いて残った。指先には小さな傷ができていた。

マリーはお金持ちが土に触れる姿に言葉が出なかった。
同時に、自分たちの仕事が誇らしく思えて嬉しくなった。

🌻第三章 祈りの連環

収穫の季節が終わる頃、ルイは再び畑に立った。
父の屋敷では次の年の計画が話し合われていた。
機械化による人員削減が主な議題だった。

ルイは知りたかった。
💬「あなたたちの祈りには、どんな意味があるのですか?」

マリーは穂を両手に包みながら答えた。
💬「穂を拾うと、心が動くの。どんな小さな穂にも、命を感じるから。それが祈りにつながるのではないかしら。」

母は空を仰いだ。
💬「この穂は、ただの食べ物じゃない。命の連なりのひとつを私たちは担っているの。私たちは土地を守ることで、みんなの生活と心を支えているのよ。」

マリーは微笑み、穂を胸に抱いた。
風に乗って、一粒の穂が高く舞い上がった。
ルイは畑を包む風に耳を傾けながら、力強く頷いた。

🌾 完

※この小説は「おはなし名画」公式インスタグラムアカウントに投稿したものです。

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